地球が丸いってほんとうですか?

〜 The truth lies within survey 〜

#36 重い山脈を浮力で支える?!

Q36. 

雪の重みもさることながら、山ってすごく重そうですね。この重みで、地下の岩石がつぶれないのですか。また、山には根があると聞いたことがあるのですが、これはどういう意味なのでしょうか。

A.36

山の重さを考えてみましょう。岩石の密度は1 cm3あたり約3 g (13あたり約3000 kg)ですから、山の高さを3000mとして計算すると、海面より上にある山の重さは畳1(1.6m2)あたり客船1隻に相当する15000tということになります。とんでもない重さですね。こんな圧力が加わっているのだったら、アルプス山脈直下では地下の岩石が壊されて、もっと多くの地震が起こっていそうなものです。
 

36- 1.ヒマラヤのような大きな山の麓では、山の方向に引力が余計にはたらくから、全体の引力(重力)は山の方向に傾くと思われた。しかし、実際に測ってみると、傾きはほとんどないというミステリーがみつかった

 
 
それに大きな山は、強い引力を自分の方向に及ぼしているはずですから、山麓では重力の方向が変わるでしょう(図36-1)。そこで、19世紀の中ごろ、ヒマラヤ山脈南麓のインド側で、実際に重力の方向の変化量が測られました。
 
でも、どのようにして測るのでしょうか。
 
星の位置を正確に観測すると、その点の緯度と経度を決めることができます。これらの値は、その地点の重力(図36-1の全体の引力)の方向(つまり真上・真下方向)を基準とした緯度・経度で、「天文緯度・天文経度」と呼ばれます。一方、ヒマラヤから遠く離れたインド南部の緯度と経度が分っている基準点から、その地点までの距離と方位を測量で求めると、地球がきれいな回転楕円体(地球楕円体)であるとしたときの緯度と経度を計算することができます。これらの値は、「測地緯度・測地経度」と呼ばれ、ヒマラヤの引力の影響を受けないとした時のその地点の重力の方向を基準とした緯度・経度です。
 
したがって、この2種類の緯度・経度の間には、実際の重力の方向と、地球が回転楕円体であるときの重力の方向との違いの分だけ差が出ることになります。この差を「鉛直線偏差」と呼びます。鉛直線偏差は、重力のはたらく向きが、どれだけ標準値からずれているかを教えてくれます。
 
実際にこのようにして求められたヒマラヤ山麓の鉛直線偏差は、3秒(角度の1秒は3600分の1度)という値でした。ところが、地殻の平均的な密度を仮定して、ヒマラヤの引力を計算してみると、その鉛直線偏差は21秒になるはずだという結果になりました。これは、ヒマラヤの方向にはたらく引力が、理論的に考えられる値よりずっと小さいということです。ヒマラヤの山体が現に存在し、それにより引っ張られる引力があるのはまちがいありません。でも、ヒマラヤの方向の引力は、山がない方向の引力とほとんど変わらないのです。
 

36-2 .アイソスタシー。高い山脈の下には、地殻が深い根をマントルに下ろしているように見える。大陸地殻の厚さは、海洋地殻にくらべて厚くなっている。ちょうど海に浮かぶ氷山のように、マントルに浮かぶ浮力で、大陸や山脈の重みを支えている。

 
この理由として、ヒマラヤの山体の下はまわりより軽い岩石でできていて、そのため、下にある岩石まで含めて考えると、ヒマラヤ方向に引っ張られる引力と、山のない逆方向の引力は大差がないのだ、と考えられました(図36-2)。地下の岩石の密度を反映する重力異常が、ヒマラヤやチベットの地域ではほぼマイナス500ミリガル(ガルはガリレオにちなんだ重力を表す単位)とたいへん大きな負の異常を示しています。ですから、このことからも、ヒマラヤ、チベットの下は密度の小さい岩石からできていることが確かめられました。
 
これを一般化すると、大きな山の下の岩石は、まわりより軽いということになります。これは、水(密度1cm3あたり1g)の上に密度の小さな氷山(密度1cm3あたり0.9g)が浮かんでいるのに似ています。つまり、密度が大きい地球深部の岩石は、あたかも流体のように振る舞っていて、山には密度の小さな根があり、浮力で浮かんでいるのだというイメージができます(図36-2)。このような現象を「アイソスタシー」と呼びます。
 
地球のなかは、表面から地殻、マントル、外核、内核というように層構造になっています。私たちがふだん見ている岩石は地殻の一部ですが、地殻の厚さは地球半径の100分の1以下で、ほんとうに薄い殻という感じです。この殻の上に山が乗っているわけです。小さな山だとこの殻の力で山を支えられるのですが、ヒマラヤのような大きな山になると、とてもこの殻の力だけでは支えられません。そこで、マントルの浮力でこれを支えることになるのです。浮力といっても、マントルは液体ではありません。固体の岩石でできています。しかし、数千万年、数億年といった地質学的な年代のスケールで見ると、マントルは液体と同じような振る舞いをするのです。
 
北アメリカ東部にアパラチア山脈という山脈があります。この山脈は良質の石炭を産することからもわかるように、たいへん古い山脈で、いまから数億年前につくられたものです。したがって、すでに侵食によって平原になっていてもいいはずです。たしかに、山は浸食されてきたのですが、それに応じて山の荷重は減少します。すると浮力のほうが山の荷重よりも大きくなりますから、浮かび上がって(隆起)、浸食による高度の低下を補うのです。そのために、侵食されてもなかなか山脈はなくならなかったのです。
 
しかしこのようなアイソスタシーも、大陸と海洋とか、ヒマラヤやチベットのような大きな地形では成り立っていますが、もっと小さい地形では成り立っていません。富士山も地殻がその重みを支えており、アイソスタシーは成り立っていません。
 
また、月では、アイソスタシーはあまり成り立っていないようです。月は地球にくらべて小さいので、早く冷え固まったために、深部の岩石の流動性が非常に低いことが原因でしょう。実際、月には地球で見られるようなプレート運動がないことも、月の深部の流動性がとても低いことを示しています。