033.NIMAの衛星追跡点の増によるGPSの進歩
2002年4月


1.はじめに
 最近のGPS観測の精度は一段と向上し水平位置の決定は3-4mm,垂直は10−12mmにも達している。このような精度が可能となったのはいろいろな理由があろうが、ここでは米国の国立映像地図局(National Imagery and Mapping Agency,NIMA)がGPS衛星の追跡点を増加させたことによるGPS観測への寄与について説明する。NIMAの精密暦と時計の精度は過去数年間に改善されたが、これは1995年になされた衛星追跡点分布の最適解を得るのに20点の追跡点が必要という研究にもとずき、1998年より追跡点を5点増加したことによるものである。

紹介する論文は

J.T.Saffel,R.E.taylor,Impact of the National Imagery and Mapping Agency GPS Tracking Network Expansion on Precise Orbit and Clock Estimates, Proceeding of the IAG 2001 Scientific Assembly,2-7 September,2001, Budapest,Humgary

である。これは2001年9月2日−7日にブタペストで開催された国際測地学協会の学術集会に提出されたもので、のほど完全論文が報告集に収録されて2002年2月にCDとして配布されたものの一つである。
2.NIMAによるGPS衛星の追跡点の増加
 1995年、NIMAの前身でありGPSの開発の機関である米国の国防地図局(Defence Mapping Agency,DMA)は、海軍海洋戦闘センター(Naval Surface Warfare Center)に提案し、NIMAと米国空軍(USAF)とのGPS追跡点網を検討していかなる数の追跡点が望ましいかを決定することとした。追跡点の分布はNIMAの精密暦と時刻決定に最適であることが望ましいわけである。この検討の結果は、世界的に広く分布した17〜19点の追跡点が良い、ということであった。この頃のNIMAのGPS追跡点は6点でUSAFが5点持っていて計11点であった。NIMAの観測点の増加はNIMAの精密暦や時計解を改善するだけでなく、GPS衛星の運行状態の監視ができるものであった。
1996年に七つ目のDMA点が北京に出来た。これは暦の上で大切な改善であった。1997年には5点の追跡点の増加が予算化されて、1998年より2000年にかけてその設置が実現した。このときにNIMAは点の位置について研究して、アラスカ、ニュージーランド、南アフリカ、韓国、タヒチを選んだ。

NIMAの1998年7月より2000年8月までのGPS追跡点網の補強の進行をまとめると次のごとくである。
1998年
   7月 アラスカ点の設置
  12月 ニユージーランド点の設置
1999年
   1月 南アフリカ点の設置
   9月 韓国点の設置
2000年
   8月 タヒチ点の設置

これ以前にはNIMAの暦をつくるのに次が利用されていた。

五つの空軍点 コロラド・アカシオン・ガルシア・カワラジリン・ハワイ
七つのNIMA点 USNO・エクワドル・アルガーチン・イングランド・バーレン・オーストラリア・中国
一つのIGS点 マスパロア

以上13点が既存の追跡点で、さらに5点が追加されることにより、計18点となりNIMA暦は向上し、軌道と時計もよくなった。

3.追跡点増加の効果
 始めにアラスカ点の増加による軌道と時計の精度向上を調べ、ついで次々と新しい点が増加するにつれての効果を調べた。全体としては、新しい点が増加するにつれて、SDが次々とよくなり、暦精度は5.6cmつまり以前に比べて48%よくなった。南アフリカ点の増加はとくに18%の改善となった。これはここが空白であったからであろう。韓国の追加の改善は5%であった。これは既に近くに中国の追跡点があったからであろう。

追跡点ごとの軌道決定の制度。グラフの縦軸の単位は、メートル。
横軸の追跡点増加の数(0〜6)。
追跡点の増加につれて精度は上がっている事を示す。

追跡点ごとの時間決定の制度。グラフの縦軸の単位は、メートル。
横軸の追跡点増加の名前。
追跡点の増加につれて精度は上がっている事を示す。

一週間の観測ごとの平均の誤差。グラフの縦軸の単位は、メートル。
横軸は増加した追跡点の名前。
追跡点の増加につれて精度は上がっている事を示す。