031.水準測量におけるGPSの応用
2002年2月


1.はじめに
 米国の連邦航空局(FAA)は、水平飛行・非精密進入・カテゴリー1の精密進入などを実現する目的で、GPS中心の衛星航法広域補助システムWAASを開発中である。ヨーロッパの宇宙庁(ESA)などは、GPS衛星とGLONASS衛星の利用だけでは不充分と考えて独自の衛星打ち上げを含む衛星航法広域補助システムEGNOSを開発中である。これはいわば第1世代の衛星航法システムGNNS−1で、次世代GNNS−2としてはGalileoを考えている。日本の航空局も同じような衛星航法システムMSASを考えているが、最近の静止衛星の打ち上げ失敗で、計画は延びている。WAASとEGNOSの補正情報を使ったディファレンシャルGPS(Differential GPS,DGPS)は、垂直成分で6m、水平成分で4mの精度をもつ広域的なディファレンシャルGPSである、といわれている。本稿では、文献

M.Abousalem,S.Lusin,O.Tubalin:DGPS Positioning using WAAS and EGNOS Corrections,Proc.ION-GPS 2000,2000,320-328.

などによりながら、WAASとEGNOSSの補正情報を使った広域DGPSの現状を紹介する。
2.1参照点と多参照点のDGPS
GPS観測での擬似距離は次のような誤差をもつている。

衛星の時計      最大300000m
衛星の軌道          5〜20m
S/A           20〜30m
電離層            2〜30m
対流圏            2〜20m
マルチパス          0〜10m
受信機の時計     10〜10000m
雑音            0.1〜3m

DGPSは固定した準拠点での観測と移動する観測点での観測とからなるシステムであるが、1準拠点のDGPSがふつうである。これにより上記の多くの誤差が消える。誤差はつぎのようになる。

衛星の時計             0m
衛星の軌道       0.1〜0.5m
S/A           1〜2ppm
電離層       0.2〜0.4ppm
対流圏         0.3〜3ppm
マルチパス          0〜14m
雑音          0.1〜4.2m

これで20cmまでの精度の測位が可能となる。1準拠点によるDGPSでは200kmぐらいまでのカバーにとどまる。それでこれを拡張してもっと広い範囲がカバーできるような広域デフアレンシャルGPS(Wide area differential GPS,WADGPS)の考えがうまれる。このことは多数の準拠点をもった多準拠点DGPSによって実現できる。
3.WASS,EGNOSSの広域DGPSの現状
現在試みられている米国のWASS,EUのEGNOS,日本のMSASともにすべて補正情報(衛星時計誤差、衛星軌道誤差、電離層遅延)はRTCADO−229の形式で航空機に送られる。航空機で観測される1周波の受信結果はこの補正情報によって補正され、位置決定がなされる。

WASS

WASSの主契約社はRaytheon社で、既に25の基準点と2つのマスターステーションを設置し終わり、今はPhase−1の段階にある。垂直精度は7mで、これはスペックの範囲内ではあるが、integrityによるアラームの頻度が不十分で、ソフトを改良中である。
衛星テストベッド
25の広域基準点は、アメリカ大陸(米国、カナダ、アラスカ)とハワイ、アイスランドにまたがっている。情報は、広域主ステーションに集められ、ここで補正情報とintegrity情報とが作られる。これは静止衛星に送られ、それから周波数L1で全利用者に送られる。

EGNOS

主契約社はThmson CSFである。GPSとGLONASSとを使う。1999年に200milionのEuro予算がついている。EGNOSの基準点はRIMSという。これはMCCに送られる。現在34点のRIMSと4点のMCCとがある。
衛星テストベッド
8つのRIMSと1つのMCCとがある。

MSAS

主な契約者は、Alcatel,Toshiba,Mitsubishiである。GPSのみをつかう。

4.テストの結果
 受信器はAshtechG12,GG24を使用した。G12は12チャンネルでL1のC/Aコードと搬送波を受信する。GG24は24チャンネルのL1C/Aと搬送波を受信するGPSとGLONASSとを受信する。データはSANTACLARA(カルフオルニヤ,USA),モスコー(ロシア),READING(イングランド)で集められた。解析はATECHのユーテイリイテイSOPHISによった。各時刻ごとの2次元位置、位置成分、を出力した。その例を図に示す。

結論
WASSとEGNOSは今テストモードで稼動中である。EGNOSの補正情報をつかって、水平は4m垂直は6m程度までの位置決定観測が可能である。更なる改良が求められている。

EGNOS補正ずみの水平位置決定の結果(モスコウ)。
平均位置からの各観測結果のずれが示されている。
南北方向の位置の標準偏差3.61m 
東西方向の位置の標準偏差2.48m
垂直方向の位置の標準偏差4.38m

EGNOS補正ずみの垂直位置決定の結果(モスコウ)。

EGNOS補正ずみの各種統計量(モスコウ)。