022.局地高さシステムとその国際的統一
2000年10月


1.はじめに
 いろいろな測地観測量の国際統一で今日なお残っているのは各国の高さシステムの世界統一系への移行である。水準測量と重力測量の実施によってヘルメルト近似による正標高は容易に得られるようになったが、これとGPSによる楕円体高とを比較してGPS/水準ジオイドが容易に求められる。
 このジオイドは重力学的に求めた重力ジオイドと一致すべきものであるが、現在なお、時には1mの食い違いがある。この食い違いの原因についてはさまざまな要素があるが、正標高といえども現在では各国の水準原点によっていて、この水準原点は各国の特別な験潮所での平均海水面を基準としてその高さが決まっているものであり、この平均海水面が必ずしもジオイドと一致していないからである。その最も重要な理由は平均海水面に与える海流の動力学的な影響が評価しきれないことにある。このような影響を海水面の局所永久動力学的形状(Local permanent ocean dynamic topography)などと言っている。
 このような課題を論じた例としてスミス・スモール:カリブ海域の高精度ジオイド高モデルCARIB97 D.A.Smith,K.J.small;The CARIB97 high-resolution height model for the Caribbean sea,Journ.Geod.,73(1999),I-9を解説してみよう。スミスは米国の国立測地局(NGS)のひと、スモールは米国の国立映像地図局(NIMA)のひとである。
2.カリブ海域の各地の高さシステム検討の結果
 1996年に米国大気海洋局(NOAA)の国立測地局(NGS)は、連邦航空局(FAA)との契約により、カリブ海域の空港の位置の決定を行うこととなった。カリブ海域のそれぞれの島には1〜2の空港があり、31点につきGPSによって決定した楕円体高と局所平均海水面に立脚して求めた高さ(これを潮位高ということにする)との比較ができた。その差はジオイド高と考えられるが、1mに及んだ。
 そこでCARIB97という新しいジオイドモデルを、カリブ全域の高さの基準とするために、構築した。Kearsley(1986)によると、100kmにつき5cmのジオイドの差の精度を保つには6ユ×6ユの範囲の3mgalの精度の平均重力異常が必要である。カリブ海域では重力の分布に不足があるので、NGSは国立映像地図局(NIMA)に保持されている重力値の提供の協力を求めることとなった。CARIB97はこの協力の産物である。
 問題は(1)平均海水面の形状の誤差、(2)この平均海水面との潮位高の結合についての情報不足、などを検討するにあった。
3.EGM96ジオイドよりのカリブ海ジオイドCARIB97の計算
 CARIB97は「除去-計算-回復(remove-compute-restore)」という方法で高速フーリエ(FFT)によった。
前提となる基本定数は
W0=62636856.88m2/s2(Bursa,1995)
GRS-84楕円体(Moritz、1998)
GM=3.986004418×1014m3/s2(Bursa,1995)
などである。潮汐の影響は全く考えない。
計算の基本式は



ここで
a1=EGM96の赤道半径(6378136.3m)
a2=GRS-80の赤道半径(63781367.0m)
GM1=EGM96の重力質量定数(3.986004415×1014m3/s2)
GM2= GRS-80の重力質量定数(3.986005000×1014m3/s2)
GM3= 最良の重力質量定数(3.986004418×1014m3/s2)
W0=ジオイド上の重力ポテンシャル(62636856.88m2/s2)
U0=楕円体上の正規ポテンシャル(62636860.85m2/s2)
Cnm=潮汐を全く考えないときのEGM96の完全正規化ポテンシャル係数
Dnm=潮汐を全く考えないときのGRS-80の完全正規化ポテンシャル係数

 NGSは120,000点の重力値を持っているが、これにNIMAの545,000点を加えた。米国地質調査所の30モ×30モの地形モデルGTOPO30(USGS,1997)を利用し、さらにTOPO30も用いた。キユーバにおける重力の不足が決定的であったが、Least squares collocationで補足した。
 こうして出来上がったカリブ海ジオイドはプエリトリコ海溝で-71.0m,コスタリカで+17.1mである。
4.カリブ海域のGPSと潮位高
 NGSはFAAとの契約でカリブ海の空港でGPS観測を実施した。このうち31点でGPSによる楕円体高と局所平均海面に立脚した高さすなわち潮位高が利用できる。潮位高は正標高ではない。
いま
H:正標高
Hユ:潮位高(ある測位観測で定まった平均海水面に準拠した高さ)
 ζ:局所永久動力学的形状(Local permanent ocean dynamic
topography,PODT)[平均海水面の定誤差としてよい]
とする。すると


であって
N:EGM96のジオイド高
とすると


でeを定義してこれは




下付きのtrueを持っている記号はその記号の表す量の真の量、eはそれについてる下付きが表す量の誤差である。
 CARIB97を計算した後に(4)でeを推定した。(6)式での誤差を評価してζは平均して-51cmとなった。潮位高はこれだけの誤差である。しかし誤差RMSは±62cmにもなっている。
.局所高さの検討
 水準原点の定誤差や高さにひそむ定誤差を検討するためにCARIB97をつくったわけであるが、しかし大洋にζがあるために島々での高さの食い違いを決定的に明らかにすることは出来なかった。しかし特定の島では出来そうである。

Grand Bahama Island
ここでは5km離れて54cmの高さの差があった。水準測量をやってみる必要がある。
Curacao
10km離れて18cmの高さの差であった
6.CARIB97とEGM96との比較
 コロンビアでのEGM96のジオイド高とCARIB97の差はMagentaで2.7cm、Haitiで+2.5cmであった
7.まとめ
 重力ジオイドモデルCARIB97をつくった。このモデルはEGM96に比べて、31点でGPSによる楕円体高と潮位高が利用できる点で、改良されたことが示された。ジオイドが改良されて島々での水準原点の定誤差が是正できるようになった。たしかGrand Bahama IslandやCuracaoではそうであるが、一般的にはまだ問題が残る。まだ重力観測が少なく、確定的な答えを出すには重力観測を補充しなくてはならない。
 CARIB97とGPS/潮位高によるふたつのジオイド面の差は-51cmである。誤差は±62cmである。これはEGM96とGPS/潮位高によるジオイドの差は-98cmで、誤差は±77cmである場合に比べると進歩してはいる。しかし、なお、水準原点の偏りや高さにひそむ定誤差、ジオイドの誤差などをよくするにはζすなわち局所永久動力学的形状を検討しなくてはならない。これは島ごとにことなる未知の偏りである